研究内容

近年、ミキシング技術は、化学工業、重合工業、食品工業、バイオエ業においては勿論、セラミック工業、インク工業、触媒工業等の非常に広い分野においてプロセスの生産性、経済性、さらには高機能性新素材製造の可否に関わる重要な技術となっています。また、最近のミキシング技術においては、単に撹拌混合のみを対象にするのではなく、撹拌槽や反応槽内で生起する物質移動、熱移動、反応現象の詳細を総合的に捉え、それらの現象を迅速かつ緻密にコントロールし、目的とする製品を生み出すための最適なミキシング状態を実現するという、より高度なレベルでの問題解決が求められてきています。対象となる流体も、擬塑性流体、ビンガム流体、粘弾性流体などの非ニュートン的レオロジー特性を有する流体や沈降性固体粒子懸濁液、気液あるいは液液分散液など不均一異相系流体であり、新しいミキシング技術の開発、化学工学的な体系化が望まれています。 当研究室では、この様な社会のニーズに応えるべく、以下に示すテーマについて研究を行っています。ミキシング装置において流動を介して生起する諸々の現象を、新たに開発した計測技術を用いて忠実に捉え、そのデータに基づいた、現象の再現性のある精度の高い解析手法、例えば数値シミュレーション手法を構築する、あるいは研究において得られたミキシングの技術・知見をバイオや超臨界のように新規な工学の場に応用するという、姿勢をもって積極的に研究を進めています。



1.異相系撹拌槽における分散状態に関する研究

 異相系撹拌槽は、今日の化学プロセスにおいて極めて汎用されている装置であり、同装置において気泡、液滴あるいは固体粒子等の分散相を連続相中に如何に分散させるかは、物作りの現場の重要な課題の一つです。  当研究室では、これらの異相系撹拌槽において、これまで測定不能と考えられていた気泡、液滴、固体粒子等の分散相が濃厚に存在する状態での異相系分散状態、すなわち粒子径分布、濃度(流体中の粒子含有率)、粒子の表面積、粒子の形状をリアルタイムに観測できる測定法を独自に開発し、またレーザー光による可視化・計測技術を用いて研究を行っています。特に最近では、撹拌槽における晶析過程の現象解明ならびに撹拌操作条件が同過程に及ぼす影響の検討や、懸濁重合槽における分散状態と反応生成物に及ぼす撹拌操作の影響の検討に力を入れています。  研究では異相系の分散状態の計測、体系化はもとより、上述の測定法を用いた異相系分散状態のオンライン制御システムの開発も併せて行っています。

  • 撹拌槽における高濃度・液滴分裂速度の計測法の確立と同計測手法を用いての液滴分裂速度の検討
  • 撹拌型液液分散装置における流動・液滴分散状態の検討(独立行政法人研究機構との共同研究)
  • リアルタイム高速画像処理システムを用いた蒸発晶析ならびに冷却晶析槽内における結晶成長過程の測定、および同過程に及ぼす撹拌操作条件の影響
  • レーザー光計測技術を用いた冷却晶析槽における1次核発生状況の計測と同状況に及ぼす撹拌操作条件の影響
  • リアルタイム高速画像処理システムを用いた、各種翼付懸濁重合槽における液滴径分布の計測とその制御に関する研究

液液撹拌における相逆転現象のトモグラフィー計測


2.新しい計測技術の開発、応用研究

 工業的規模の反応槽内の流動、伝熱状態、温度分布は反応制御に不可欠な情報ですが、これまでにも増して研究開発、および工業上有効な計測法の開発が望まれています。研究室では最新のエレクトロニクス技術を駆使しリアルタイムで画像データを採取、処理するシステムの開発や撹拌槽の任意断面における異相分散状態を非接触にして観測表示する電気抵抗トモグラフィーシステムの検討を行っています。  リアルタイム高速画像処理システムに関しては、撹拌場において高速で移動する流体の乱れや混相流中の気泡、液滴、結晶固体の形状、移動速度の同時計測を可能にし、異相系分散状態の計測や撹拌槽における固体粒子の溶解現象に関する知見を報告しています。また、電気抵抗トモグラフィーシステムについては、これまでに同測定システムの改良を重ねた結果、懸濁重合反応槽におけるモノマー滴分散状態を反応場において連続計測することに成功しました。現在、トモグラフィー画像と得られた懸濁重合物の品質との関係につき検討を進めており、同システムを用いた重合物の品質管理・制御の確立を目指しています。

  • 高濃度液中における固体金属粒子の沈降・分散状態のトモグラフィー計測(民間企業との共同研究)
  • 固体粒子懸濁槽内における固・液間相対速度の測定法の開発
  • 固体粒子溶解槽における液流の乱れと溶解速度に関する研究
  • 電気抵抗トモグラフィーシステムによる懸濁重合反応場の連続計測と制御
  • 電気抵抗トモグラフィーシステムによる通気撹拌槽における気泡分散状態の計測


3.数値シミュレーション手法の開発

 撹拌技術の研究・開発において、撹拌装置内の流動・混合・反応・伝熱現象の詳細な検討は不可欠なものです。コンピュータを用いた数値シミュレーションは実験的計測が困難な撹拌槽型重合反応器内の諸現象の解析等に大きな役割を果たします。また、プロセスの工業化にあたり、装置の設定条件や操作条件を容易に変更できるため、装置のスケールアップ問題や装置内の流動に起因するトラブルを解決する有効な手段となりうるものと期待されています。当研究室では、EWSクラスのコンピュータを用いて計算することができ、同数値解析の妥当性を実験的に検証を行うことにより、工業的に利用可能な数値シミュレーション法の開発・確立を検討しており、以下のテーマに取り組んでいます。

  • 撹拌槽における乱流流動場の数値解析法確立のための実測データの集積、スキームの検討
  • 撹拌槽における異相系分散液の流動と分散相固体粒子追跡のシミュレーション手法の確立
  • 撹拌槽における晶析過程の数値解析法の確立 (科学研究費補助金 若手研究(B)研究課題, 平成16~17年度(No.16760121), 平成19~21年度(No.19760112), 平成23~24年度(No.23760147))
  • 撹拌槽における溶解過程の数値解析法の確立
  • 撹拌槽内の流動とポピュレーションバランスに基づく、懸濁重合過程の解析法の確立
  • 大型化学反応電気炉における流動・伝熱・反応状態の数値解析法の確立(民間技術士事務所との共同研究を予定)

 固液撹拌槽における粒子分散状態のラグラジアン解析


4.特殊ミキシング操作に関する研究

 通常、撹拌操作は、撹拌翼を槽中心に設置し、邪魔板を何枚か設置することで行われます。当研究室では、あえて撹拌翼の設置を槽中心からずらした偏心状態とし、邪魔板を用いない状況での撹拌・流動・混合状態の検討を行っています。汎用の小型翼を用いた場合から既に実用化されている幾つかの大型翼を用いての検討を行っています。  スラリー系流体を小型翼で撹拌するとき、翼の廻りだけで流動状態が生じ、その外側は静止状態となるカバーン(cavern)と呼ばれる状況が発生します。カバーンの内外では、液の入れ替えが起こらず、混合状態は極めて不良となります。この状況を打開するために、通常はスラリー流体では行われない、槽底からの通気操作を行い流動・混合状態を改善する検討を行っています。

  • 邪魔板なし偏心撹拌操作に関する研究
  • スラリー系流体撹拌槽における通気操作による混合状態改善の検討(科学研究費補助金 基盤研究(C) 平成21~23年度 助成研究テーマ)


5.高濃度湿潤粉体の特性と高度分散液作製に関する研究

 インキ工業、セラミックス工業においては微粒子ないしは超微粒子を高度に分散した液の作製の要望が極めて大きいものがあります。ここで言う高度分散液とは、液中の微粒子ないしは超微粒子群において、粒子相互が凝集することなく、一次粒子化された状態で分散されており、液全体としても均一な分散状態となっているものを指します。この様な分散液の迅速な大量生産が可能となれば、例えば液晶ディスプレイの製造プロセスの画期的な進展が期待できるほか、超高強度、耐摩耗、耐熱性セラミックスや高温超伝導セラミックスの製造等にも応用可能になると考えられます。またこの様な高濃度湿潤粉体からなる分散液は、時間的にそのレオロジー特性が変化する特異な性質を有することが多く、定量的かつ工学的な取り扱いが充分になされていません。さらには、これらの液を対象とした混合評価も体系的に見直す必要があります。  当研究室ではナノスケールを意識した固体粒子の湿式粉砕による超微粒子の製造から、その高度分散に至る一連のプロセスに関連する以下の研究を行っています。

  • 連続アニュラー型媒体撹拌ミルにおける粉砕性能の解析的表示法の確立と同手法に基づく性能評価に関する研究
  • 摩砕性能を強化した高度分散液作成のための新型アニュラー媒体撹拌ミルの開発
  • 液中への微粒子ないし超微粒子分散状態のオンライン計測法の開発
  • 種々の撹拌槽における高濃度湿潤粉体の混合評価に関する検討
  • 高濃度湿潤粉体のレオロジー特性に関する検討


6.ミキシング技術の超臨界場への適用・展開

 超臨界場・超臨界流体は、濡れ性や熱伝導性に優れ、低粘度であることから取り扱いが容易となること、またその溶媒としての物性を圧力や温度により、感度良く変化させることができるという特性を有しています。 研究室では、超臨界場に、これまでに培ってきたミキシング技術を適用し、これらの特性をさらに促進させることで、従来にない新規材料を製造する技術の開発や、新たな現象の発見を模索するために、以下の研究を行っています。

  • 超臨界場を用いた金属イオン抽出用DEHPA含浸ポリマー粒子の作製
  • 超臨界場を用いた不斉合成反応の検討
  • 超臨界場における相分離を利用した連続重合反応器の開発
  • 超臨界流体を用いたポリマー超微粒子系複合材料製造装置の開発
  • 超臨界場を用いた新しい分散技術の開発(民間企業との共同研究を予定)
  • 超臨界場を用いたナノ微粒子の作製(民間企業との共同研究)
  • 超臨界場を用いた架橋構造ポリマーの作製とその構造制御
  • 超臨界場におけるメカノケミカル現象の発現とその応用に関する検討


7.ミキシング技術のバイオへの適用・展開

 ミキシング技術は、発酵槽や汚泥処理槽等のバイオリアクターに見られるように、バイオと深い関係があります。またライフサイエンスを化学工学、取り分けミキシング工学の立場から指向していくことは、大いに意義深いことと考えています。研究室ではこれまでに蓄積してきた、レオロジーや流動・混合に関する計測・解析等のミキシング技術を、この分野に積極的に適用し、新たな知見を得て、体系化することを目指し、以下の研究に着手しました。

  • 剪断応力の低減を目指したクリーム製造用撹拌翼・撹拌装置の開発(民間企業との共同研究)
  • 連続式各種撹拌型混合槽における微量成分の精密混合と混合状態の評価(民間企業との共同研究)
  • 撹拌型バイオリアクターにおける乳酸菌培養に及ぼす撹拌操作条件の影響(民間企業との共同研究)
  • 撹拌型バイオリアクターにおける酵母菌培養に及ぼす撹拌操作条件の影響
  • スピルリナ細胞に及ぼす撹拌・剪断作用の影響